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母と子と家づくりの情緒
2019.4.26
わたくしごとですが、我が家の2番目の子供が生後10か月を迎えました。
最近仕事から帰ってきて、家族の様子を何気なく見ているときによく思うのです。
妻と子供の間には、男親が決して入ることができない世界があるんだな。
でもそういう信頼関係みたいなものって、家づくりにおいても大切だよな。
男親としては、少し寂しい気持ちもありますけどね。
というわけで今回は、母子の結びつきから家づくりにおける信頼関係に絡めて書いていきます。
母親と赤ちゃんは2つで1つ
僕は「母親と赤ちゃんは2つで1つ」つまり「母親と赤ちゃんの関係は、2つだけど1つでもあり得る」と思っています。
というのも、
- 赤ちゃんは3歳まで自他の区別が無いと言われているけれど、実際には母はいる(ある)。
- 同時に親子の絆も存在していて、赤ちゃんはお母さんに抱かれ、お母さんの顔を見て笑っている
- けれど自他の区別がない赤ちゃんからすれば、自分を抱いてくれる母親と自分が別のものだとは気づいていない。
(ちなみに3歳までは時間という概念も無いと言われています。)
このような母親と赤ちゃんとの結びつきを、数学者・岡潔は情緒と言い表しています。
情緒はもっと日常の何気ないところにも存在しています。
例えば僕が家の中で、上の子と下の子が無邪気に戯れている様子を微笑ましく感じること。
「もみじはいいなあ」
「すみれはいいなあ」
「桜はいいなあ」
と四季折々の自然を愛でる気持ち。
そう、頭で考えるのではなく、心が自然と動かされてしまう、心地よいこの感覚。
多かれ少なかれ、誰でも日々の暮らしの中で情緒を体感しているはずです。
自他の区別はいらない?
自他の概念について、もう少し掘り下げていきます。
仏教では自他の区別が無く、時間という概念も無い状態を「涅槃(ねはん)」もしくはサンスクリット語で「ニルヴァーナ」と呼びます。
一方西洋の思想では、自分こそが「自我」であり、自他がはっきりと区別されます。
先述した岡潔は西洋思想の「自我」に対して、禅的・仏教的な解釈から「小さい自分(小我)」と風刺しています。
もちろん、どちらが正しいという問題ではありませんが、前回のブログ記事『男前インテリアとカルチャー』の中で取り上げた、現在のミニマリストの流行に私たちの答えが現れているような気がするのです。
断捨離をして余計なものを持たないミニマリストのカルチャーは、禅的思想に近いものです。
iphoneを生み出したジョブズが影響を受けたのもうなずけます。
若い世代を中心にいま日本でミニマリストが受け入れられている背景には、仏教ベースの文化を持つ私たちが西洋の物資主義思想(端的に言えば物ありきの文化)からの脱却を試みているとさえ感じてしまいます。
家づくりにも情緒が大切
事業を始めて3年が経ちました。
多くのクライアントに出会い、家づくりのお手伝いをさせていただいて思うのは、巧みな営業やプレゼンテーションではなく、クライアントとの信頼関係が何より大切だということです。
クライアントと信頼関係を築くには、やはり情緒が必要で、そのためには僕たち売り手の都合「小我」をいかに消せるかどうかが肝心になってくると思います。
私たちAS IT ISが営業担当を置かない理由もそこにあります。
コラム『ホント伝わらないんだよね!』でも書きましたが、自分の成績や会社のノルマに縛られた営業担当は、自分のために働く、つまり「小我」でしかないですよね。
(営業担当が悪いというわけではなく、そもそも住宅会社が営業を主体とするシステムを取っているので、仕方が無いと思いますが…)
でもそれではいつまでたっても、自分とあなた(クライアント)という関係性から抜け出せません。
そこに「情緒」は生まれないのです。
(ちなみに感情も情緒もemotionと英訳されてしまうので、自我で考える西洋文化には情緒の概念は無いのかもしれませんね)
おわりに
つい先日、牛久市T様邸のプレゼンテーションでの話。
クライアントの要望は全部取り入れた上で、コストや手間など作り手の事情は挟まず、設計する僕が納得いくもの、住みたいと思うものを提案しました。
するとその方から「これこれ!私が求めていたものはこれです!」と深く共感していただけたのです。
ともに家づくりに真摯に向き合うことで、クライアントと僕がわずかでも2から1になった、情緒が生まれた瞬間でした。(と僕には感じられました。)
家づくりは、多くの人にとって一生に一度の大イベントです。
ただの売り手と買い手の関係で終わるのは寂しいですよね。
クライアントとの情緒体験は、僕にとっても他のものには代えられない、とても尊いものなんです。