境界線
住宅

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Data
- 所在地
- 茨城県つくば市
- 構造規模
- 木造平屋建て
- 延床面積
- 98.12㎡(29.54坪)
- 竣 工
- 2021年
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Story
旅を愛し、各地の温泉宿に身をゆだねてきた建主が、日常のなかにもその余韻を持ち帰りたいと望んだことから、この住まいは始まりました。浴室は既製の枠を離れ、外へと連続する半屋外空間へとほどけていきます。湯気の向こうに空気や光、風の気配が重なり、室内にいながらどこか遠くへ来たような感覚をもたらします。
長く都市で働き、引退後の静かな時間を過ごす場所として選ばれたのは、利便性と緑の気配が共存する土地でした。駅に近い安心感と、一歩奥へ入れば自然を感じられる環境。都市と自然、利便と静寂。その両方を手放さずにいられる場所です。
住まいには、木製サッシや太陽の熱を取り込む仕組みなど、いくつかの要望が丁寧に取り入れられています。
この住宅を特徴づけているのは、二つの世界を分ける「線」を強く引くことではなく、その線をにじませることです。内と外、日常と非日常、都市と地方、造作と既製――対極にあるはずの要素は、明確に区切られるのではなく、濃淡を変えながら互いに溶け合っていきます。太くはっきりとした境界もあれば、気づかないほど淡い境界もある。それらが重なり合うことで、空間は単一ではない奥行きを帯びていきます。
ここでの暮らしは、どちらか一方を選ぶことではなく、その「あいだ」に身を置くこと。境界は隔てるための線ではなく、異なるもの同士が出会い、混ざり合い、やがてひとつの風景になるための余白として存在しています。だからこそこの住まいは、日常にいながらどこか遠くへ旅しているような、静かな浮遊感をたたえているのです。