つくば嶺に抱かれて

住宅

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  • Data

    所在地
    茨城県つくば市
    構造規模
    木造平屋建て
    延床面積
    96.22㎡
    竣 工
    2024年
  • Story

    筑波嶺(つくばね)の
    峰より落つるみなの川
    恋ぞつもりて淵となりぬる

    悠久の時を超え、万葉の風が吹く「つくば道」。
    この地に根を下ろし、人生の終幕を迎える90代のご夫婦の家。

    願いはただひとつ。
    木のぬくもりに包まれた住まいを。

    間取りは至ってシンプル。
    どこに何があるのか、迷うことのないように。
    ただ、そこにあるものが、そこにあるべくして在る。

    長き旅路を歩んできたお二人の住処を設計するにあたり、
    「生」と「死」のあわいに佇む家を思い描いた。

    人は年を重ねるごとに五感が静かに薄れていく。
    けれど、変わらずに響き続ける感覚がある。
    それは、「自然を愛でる心」——

    90年を超えてこの地に生きる施主にとって、
    筑波山の風は、己が呼吸と溶け合い、
    鳥のさえずりは、心の鼓動と共鳴する。

    アニミズムの世界では、
    対象と観察者は一つに溶け合う。

    だからこそ、
    この家に満ちるのは、風の通り道、木のささやき、光の戯れ。
    その場の空気、匂い、光、風を感じ、
    この地にふさわしい素材を選び、
    木の肌を磨き、家のかたちを整えた。

    終の住処に宿るのは、ただの建築ではなく、
    自然と人が響き合う「場」である。

    筑波の麓に、そっと佇む。
    山の気配に抱かれ、
    風のうたに耳を澄ませながら——。