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未来が見えてしまう絶望感と安心感

2024.10.13

『AS IT IS』の弓削です。
 

絶望と安心

少し強引な話かもしれませんが、(実際、未来がどうなるかは誰にも分かりませんが)私は、人は未来が予測できることで「絶望感」を抱く人と「安心感」を抱く人の2つに分かれると思っています。

私は前者、つまり「絶望感」を抱くタイプです。

AS IT ISを立ち上げる前、ハウスメーカーで働いていた時に上司の働き方を見て、深い絶望を感じたことを今でも鮮明に覚えています。

「これが自分の20年後か…」と。

家族を養えず、家族と過ごす時間もなく、ものづくりからも離れた働き方。ちょうど、迷路の行き止まりに立たされたような感覚でした。進むべき道が分かっていても、それが希望のある道ではなく、息苦しく感じたのです。

 

一方で、未来が見えることで安心する人がいるのも理解しています。例えば、登山中にゴールの山頂が見えた時に、ゴールがはっきり分かっていることで安心する人もいるでしょう。

しかし、私にとってその未来は、見えることがむしろ重荷で、何の希望も見出せませんでした。

 

なぜ、未来が見えてしまうことでこんなにも絶望を感じるのでしょうか?

 

家づくりは生き方

ここで、AS IT ISのメルマガを読んでくださっている方の言葉を引用します。

「家づくりは生き方そのものだ」とおっしゃった方がいました。

 

先に述べた「未来が見えることで絶望する人」と「未来が見えることで安心する人」という2つのタイプは、その人の生き方にも大きな影響を与えていると思います。

この考え方を、家づくりにおける設計に置き換えてみましょう。

 

設計プロセス

設計のプロセスは、クライアントのヒアリングを通じて、間取りや空間、素材、ディテールなどが形作られていきます。

私の場合、クライアントから伝えられた要望はすべて頭に入れますが、それをそのまま受け取ることはしません。

たとえば、クライアントが「家に広いリビングが欲しい」と具体的な要望Aを出したとしても、そのまま受け入れることはせず、次のようなプロセスを行います。

 

  1. なぜその要望が出されたのか、背景を探る。例えば、家族の団らんの場が必要だからかもしれません。
  2. 要望Aとは逆の内容を探る。たとえば、「本当に広いリビングが必要なのか?」と問い直す。
  3. Aとは異なる視点や切り口を探る。例えば、「リビングを広げる代わりに、他の部屋に工夫を凝らして家全体のバランスを取れないか?」と考えます。
  4. Aと関連する他の要素を探る。例えば、リビングの広さに加えて、天井の高さや照明の配置で、より開放的に感じられる空間を作れるかもしれません。

 

探る

このように、設計は単なる「聞き取り」と「実現」ではなくクライアントの本当の意図を探り、隠されたニーズや可能性を引き出すプロセスです。

言い換えれば、地図を見ずに新しい道を探す探検のようなものです。

この「探る」過程が、リアリティのある提案に結びつき、クライアントにとっても価値のあるものになるのです。

 

住宅や建築は、図面や数字だけでなく、実際に体感する空間です。だからこそ、この探るプロセスを大切にすることで、クライアントにとって「体感的」に納得できる提案ができるのではないかと思います。

さらに、「探る」という行為は、探検や冒険にも似ています。その中で私たちは、新たな発見をします。

ちょうど、地図にない道を歩きながら新しい景色や隠れたスポットを見つけるように、クライアントが求める本質や、設計者としての新しい視点が見つかるのです。

 

冒険

これが今回のテーマである、絶望感や安心感の先にある本質だと思います。

つまり、私たちが住宅設計を行う理由は、未来の見通しに対する絶望感や安心感に囚われることではなく、クライアントの感性を発見する喜びや、設計者としての新たな経験を得るためなのです。

まさに、未来を形作るという「冒険」に出ているのだと思います。